正月

正月


年末になると、暖冬と呼ばれていたのが嘘であるかのように思えてきた。

少しくらい薄着でもいいか、と思えたのはたった一週間前のことだ。それがたった数日で、朝晩着替えるのが億劫になるほどの寒さに変貌したのだから、今年の気候のバイタリティは大したものである。

寒いのは、何も人間だけではない。モフモフの毛皮を持つ動物、我が家が誇る老犬も漏れなく対象だ。
そしてこの犬、人間の年齢に換算すれば我が家庭内での長老になることは間違いない老犬なだけあって、足腰が弱りボケも入る、果ては座ることもままならず、北風が吹けばそれに合わせてふわりふらりと揺れる有様。
水や餌も地面に置いたままではなく、わざわざ口元まで持っていかねば摂ることもできない。おまけに夕飯はブルブルと寒そうに震えながら食べるものだから、不憫に思った父が食事後に犬用の毛布をかけてやっていた。
毛布は好評のようで、くるまって寝る姿をよく見かけるようになった。老犬と言えどもその姿は可愛らしいものである。

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ギブアンドテイク

ギブアンドテイク


今日も夜の帳が降りた。

スポットライトは憂鬱と共に海の向こうに沈み、寂しく黄昏を見つめていた人々は、とぐろを巻く夜の闇へと静かに飲まれていく。 ……と、書いたところで、思わず笑ってしまう。

ほのかな不安を抱えながら起床して、昼間は努めて真面目に生きて、夕方にはほとほと疲れ切って。 そうして、夜はパジャマ姿でマグカップ片手に一日を回想して――ああ、日中はなんであんな無駄に真剣になっていたのだろう、なんて考えてクスクスと笑う。 それが夜だ。少なくとも、私にとっては。

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バイバイのノイズ

バイバイのノイズ


時間は十九時を回った。明かりのない車内は薄暗い。
明滅する黄色や赤の看板たち、車のヘッドライト、街灯、その他雑多な光源が、フロントガラスを巡っては消えてゆく。 合計で十時間以上走った運転もいよいよラストスパートで、残るは本旅行のヒロイン――助手席にいる彼女を家へと送り届けるだけだ。

車内のスピーカーからは、彼女のiPhoneからBluetooth経由で送信される、恋愛至上主義の音楽が次々に流れていく。 よくもまあ、こんなにも恋や愛、好きだの忘れられないだのと歌う曲を聴き続けられるな、と呆れ半分感心半分であった。

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